小説の一節
私は東京の下町に生まれました。古い商店街には、昔ながらの風情が残っています。
テキスト入力に応じて動的にルビを振るデモです。
私は東京の下町に生まれました。古い商店街には、昔ながらの風情が残っています。
明治維新は日本の近代化の転換点でした。江戸幕府から新政府への移行により、大きな社会変革が起こりました。
光合成は植物が太陽光を利用して二酸化炭素と水から有機物を作り出す過程です。
これは既に振られている例です。RubyfulV2は既存のルビを保持します。
強調された斜体の下線付きテキストの中に
色付きのマーカー付きの
コード
のようなキーボード入力や
上付きと下付きの文字を含む
リンク付きのテキストです。
引用文の中にも漢字が含まれています。
表の中にも | 漢字が |
正しく表示 | されます |
吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。只彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがしたばかりである。
掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛を以て装飾されべき筈の顔がつるつるして、まるで薬缶だ。其後猫にも大分逢ったがこんな片輪には出会った事がない。加之顔の真ん中があまりに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。どうも咽せぽくて実に弱った。これが人間の飲む煙草というものであるとは後で聞いたが、そんなら己等の体に入っているのと同類のものかと納得した。
このあと吾輩は書生の掌からするりと抜け出して、庭の植木の間に隠れた。そこにはひっそりとした苔むした石と、淡い香りを放つ落花が散らばっていて、昼間だというのに薄暗かった。風が通り抜けるたびに木の葉が擦れ合い、洩れ日がちらちらと動いた。その光の斑点が吾輩の黒い毛の上を滑るように移動するのをぼんやり眺めていた。
しばらくして腹が減ったので、吾輩は人間の住処へ忍び込む決心をした。縁側の下を通り、台所の勝手口へ出ると、ちょうど魚の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。吾輩は思わず喉を鳴らしながら、一歩一歩慎重に近づいた。しかし引き戸の隙間から顔を出した瞬間、女中に見つかり、箒で追い払われる羽目になった。吾輩は必死で逃げ出し、再び庭の植木の陰に身を潜めて震えていた。
その夜、月が雲間から顔を覗かせる頃、吾輩は静かに屋根へ登った。瓦の冷たい感触と夜風の涼しさが心地よかった。遠くで三味線の音が細く聞こえ、どこかの犬が吠える声が途切れ途切れに届いた。吾輩は屋根の上から人間の世界を見下ろしながら、自分という存在について小さな疑問を抱いた。「吾輩は一体どこから来て、どこへ行くのか」と。
月光を浴びて光る自分の影を見つめているうちに、吾輩は眠くなった。瓦の隙間に丸くなってうとうとすると、夢の中で巨大なネズミを追いかけていた。捕まえようとして飛びかかった瞬間、足を滑らせ、あやうく屋根から落ちそうになり目が覚めた。現実に戻ると、夜明けが近づいて空が淡く白んでいた。
翌朝、吾輩は再び例の書生と出会った。書生は縁側に腰掛け新聞を読んでいたが、吾輩を見るとにやりと笑い、小皿に残った鰹節を差し出した。吾輩は警戒しつつも空腹には勝てず、そろそろと近づいて一口舐めた。その瞬間、舌の上に広がる旨味に驚き、夢中で食べ尽くしてしまった。書生はそんな吾輩を面白そうに眺め、「これは中々利口な猫だ」と呟いた。
こうして吾輩は半ば成り行きで書生の家に住み着くことになった。最初は警戒していたが、次第に家の者にも馴れ、好きな場所で昼寝をし、夜は縁側から外を見張るようになった。時折訪れる客人は吾輩に興味を示し、撫でたり抱いたりしたが、吾輩は気まぐれに応じたり応じなかったりした。
雨の日には雨の日の楽しみがあった。障子に映る雨粒の影を追いかけたり、軒下にできる水たまりをぽちゃんと叩いてみたりした。寒い冬の夜には火鉢のそばで身体を丸め、ぱちぱちと弾ける炭の音を子守唄に眠りについた。季節が巡るたびに、吾輩は少しずつこの家と人間とを理解し始めた。
しかし、吾輩の好奇心は尽きることがない。いつかまた新しい世界を探索する日のために、今日も屋根の上で月を見上げながら物思いに耽るのであった。